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「消費者が多様化した」という議論が交されて久しい。価値観やライフスタイル、あるいは生活時間帯などが多様化し、消費者のクラスターが細分化された、という考え方である。
ただし、こうした細分化されたクラスターに基づいて、さまざまな雑誌が創刊された時期もあったが、どうやらそのほとんどは、成功といえる結果を出す前に廃刊、ないし方向転換を余儀なくされている。
たしかに消費者を「個人」とみなす以上、多様化傾向は必然的な流れとなる。しかし消費者は、孤立した個人として振舞うだけでなく、まとまった消費ユニットの一部として振舞うこともある。ひとりひとりの個性よりも、群れとしての意思が優先されることもしばしばだ。今回は、消費者個人ではなく、消費ユニットというものを捉えるマーケティングについて、検討してみたいと思う。
「団塊世代」は還暦を過ぎても、その消費者としてのパワーに熱い注目が注がれている。
世代としてのボリュームもさることながら、企業サイドから提示する新しい情報に対して、それなりの、予想に違わぬ反応を示してくれる部分があるからだ。さらに団塊世代においては、「夫婦」「家族」というわかりやすい消費ユニットを、いまだに重視する傾向がみられる。つまり、マーケッターにとって団塊世代は、常に「おいしい」ターゲットなのである。
中でも、消費者として注目したいのは、団塊世代の女性層だ。
女性の意識が変化し、「夫離れ」「熟年離婚」などの問題が取り沙汰されたこともあった。しかし、他の世代と比べると、団塊女性たちは夫との関係が比較的強く、夫婦そろってのショッピングや旅行などにむしろ積極的であるとの報告もある。
今日、団塊世代の子供たちは、(パラサイトシングルも含め)もはや大人として、独立した世界を生きるライフステージに属そうとしている。しかし、団塊世代は独立・自立したはずの子供たちを、いまだに家族の一員として囲い込もうとする傾向が強いようだ。
特に「娘」は、団塊女性にとって大きな意味合いを持っているらしい。数年前、「シニア女性とその娘」という消費ユニットが、大きな注目を浴びた。母と娘があたかも友達のような雰囲気で、ジュエリー、ファッション、旅行、グルメ、エステなどを購入・利用する傾向があり、これらは「母子消費」とも呼ばれた。
団塊女性にとって「娘」は、本音で語れる親友であり、新しい情報の窓口であり、昭和の良き時代の「家族関係」を取り戻せる象徴ともなっている。つまり、自分自身が若返るための触媒が、「娘」という存在なのである。
娘を持たない中高年女性たちも、趣味のコミュニティなどで、自分より一世代下の同性との会話から新しい情報を仕入れるなどの傾向も見られる。口コミの坩堝と目されている「ママ友」の関係においても、「一番年齢の若いお母さんの知識」が火付け役となり、年上のお母さんたちがそれを真似ることで新たな消費習慣が生まれるという話もよく聞く。
個人のパーソナリティとは無関係に、触媒的な他者の存在によって、消費行動が活性化されることもあるわけだ。消費ユニットにおける相互関係に注目してみると、一見意外とも思われるような購買行動の背景などが見えてくる。
かつては「お茶の間」「家族団欒」という言葉があった。核家族とリビングルームとテレビの組み合わせで成立したこの概念も、21世紀に入った今日、もはや崩壊に至っていると言わざるをえない。
しかしニンテンドーの「Wii」は、テレビではなくゲームで団欒しましょう、という新たなスタイルを提唱しているように映る。これまでのゲーム機が、個人で楽しむもの、もっというと、自室に引きこもって楽しむもの、という位置づけであったとすれば、「Wii」はゲームを楽しむユニットを変えてしまうような商品である。
テレビ団欒が受動型・視聴型・マスコミ型、だったのに対して、ゲーム団欒は能動型・参加型・カスタム型といえるだろうか。老若男女、大人と子供が本気で競い合えるようなソフトも多く、この目論見は相当有望かもしれない。
家族間の力関係にも「ゲーマーとしてのヒエラルキー」が反映されていく可能性もある。また、ゲーム団欒に相応しい食事や、リビングのあり方などを検討するのも悪くない。
ただ、こうしたゲーム団欒も、もはや時代遅れではないか、という見方もある。
今の若い人たちをインタビューすると、「まったく別のことをしていてもいいし、全く違うことを考えていてもいいのだけど、誰かと同じ場所にいて、その人の気配を感じていたい」という回答が返ってくる。
他者と同調せず、互いに干渉せず、それでいて他者の気配が恋しいという感覚である。これは「同床異夢の団欒」とでも呼ぶべきコミュニケーション形態で、例えば最近流行の兆しがみられる「ミニブログ」などにおいても、似たような参加動機がみられる。
同床異夢の食卓、同床異夢の居酒屋、同床異夢のエアコン…。これらはどのようなものになるのだろうか?
いずれにせよ、人々の集まり方の形から、新しい商品のあり方を考えてみる必要もあるようだ。
新しいタイプの旅行ビジネスとして注目を集めてきたクラブツーリズム(株)には、「クラブ1000構想」というビジョンがある。クラブツーリズム会員が、自発的に結成したさまざまな旅仲間のユニットを1000近くまで伸ばそう、という展望である。
現在、「にっぽんの島をあるく会」「中国五千年倶楽部」など250を超えるクラブが存在し、「受付や会報誌の配送、ツアーの企画、交流会の運営などの仕事を、全部お客様自身でやっているクラブ」(高橋秀夫著「理想の旅行業 クラブツーリズムの秘密(毎日新聞社出版局)」より)もあるという。
顧客主導のクラブにとって、もはや「旅行」すら、仲間の結束をもたらすひとつのイベントにすぎない。興味と関心を共にする人間関係が先にあり、結果として消費(ツアーに参加する)が派生するというわけだ。クラブツーリズムはこうした「仲間縁」の運営母体として、将来的には旅行業そのものを超えていく存在になるだろう。
さて昨今、テレビ局は「キャッチアップ放送」を本気で検討せざるを得なくなってきている。つまり、本放送を見逃した人のための再放送、ということである。野村総研の山崎秀夫氏によると、これは「知人に面白い番組があった、と言われて初めてテレビを見る」人たちのニーズを無視できなくなったからということだ。
かつてのテレビ全盛時代は「視聴→会話」という順であったが、いまや「会話→視聴」という順になりつつある。まず先に、気の合った仲間との関係があって、それを維持・活性化するためにコンテンツに接触するというパターンだ。
こうした「関係先行/結果的消費」というスタイルは、ネット社会の進展も考慮に入れると、ますます顕著になってくると思われる。今後は、興味や関心を共有するコミュニティごと掴まえることが、ターゲット戦略として重要になってくるわけだ。
消費者個人ではなく、「消費ユニット」を優先させた分析や開発手法を、筆者は「インターパーソナルアプローチ」と呼んでいる。
「共有」「共用」「ギフト」「交換」「自己顕示」のみならず、他者との関係において商品が使用・購買されるケースは非常に多い。商品機能のひとつとして「関係力」を高めていくことが、今日のマーケットにおいては有効な選択である。そのためには、消費者がどのような消費ユニットを形成しているかに着目することが大切だ。
また、商品・サービスだけでなく、チャネルやプロモーションの関係力も見直すべきである。
例えば最近、携帯電話の「家族間無料サービス」が話題になった。これ自体、インターパーソナルなサービスであり、それはそれでよいのだが、実際にそれを申し込もうと思って大手量販店に出向いた家族にとって、家族間でコース・端末などを相談できるスペースが、たいていそこにはないのである。
つまり店頭が、消費者間で意思決定のできる場として、なんら整っていない。あくまで、販売員と消費者とが対面する場であり、買いに来た消費者同士が対話する、というシーンを考慮に入れていないわけだ。例えば近隣の珈琲店と提携し、見込顧客にちょっとした「相談の場」を提供するだけで、膨大なる販売機会の逸失を防げるかも知れないのに…。
「母子」だけでなく、「父子消費」「三世代消費」「ママ友」「週末夫婦」、さらには「ネタ共同体」に至るまで、消費ポテンシャルの高いユニット探しが始まっている。消費者もまた、ひとりで生きているわけではないという自明の事実からマーケティングを組み立て直すと、また新たなる地平も開けてくるように思う。