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反怖謙一の「ABC通信」

ABC通信は、日々の気付きや学びを基に、物事の根本や本質について忘備録的に書き綴ったものです。
ABCは、A(あたりまえのことを)、B(ぼんやりせずに)、C(ちゃんとやる)の略で、私自身の座右としているものです。

ABC通信

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2021年3月29日更新

人間性の磨き合い
     私達夫婦は、結婚して三十数年目になります。この間、お互いの気持ちが合わず、身勝手さも手伝って、言い争うこともしばしばでした。しかしながら、今この時期になって、妻との結婚生活を通じ、多くのかけがえの無い学びや気付きを得て、己の人間的成長を図る事が出来たのではないかと、心の底から感謝している次第です。出来損ないで不安定な人格であった私を忍耐強く支え、磨いてくれた妻には、本当に頭が上がりません。
     今実感するのは、夫婦で傷付け合い、あちらこちらに血が飛び散っている状態、これを結婚(血痕)と呼ぶのではないかということです。他人との関係においては、何かしら気に沿わない言葉を投げ掛けられても、怒りや不満を抑えての自分に踏み止まれるものの、妻が相手となると、箍(たが)の外れた樽同様になって荒れてしまい、血だらけを演じてしまう自分がいます。まさに妻という存在に甘えた自分自身の幼児性そのものです。
     私はこれまでの血だらけの体験を通じて、結婚とは自分の幼児性と決別し、真の意味で大人になるために存在するものだという事を学びました。大人とは“音無し”に通じるという考え方もあります。大人とは、いわゆる音の無い人、つまり怒鳴ったり、怒ったり、声を荒げたりしない人です。結婚して、自分のわがままを言い合える人が出来たとき、それに甘える事無く、何事においても音無く、如何に踏み止まれるか、それが自分自身の幼児性との決別であり、大人に成るという事なのだと思います。夫(妻)が不機嫌になる度に、妻(夫)が腫物に触るように「どうしたの? 私、何か気に障る事言った?」などと控えめに接するのは、夫(妻)の幼児性を増幅させてしまうだけであり、むしろ正面から堂々と向き合い、相手の幼児性との決別のお手伝いに努めることこそが、結婚本来の本質に適うのだと思います。
     実は結婚の本質とは、一番遠く、違う者同士の結び付きといわれます。人は異質なものに刺激を感じ、安心するのは似た者同士の組み合わせといわれることもあります。感情的に好きになり、似た者同士との安心感を得て、共に暮らしたくなるように仕組まれているものの、その本質は、互いの人間性の磨き合い、魂の磨き合いに最も相応しい、例えて言えば「立派な砥石」の入手こそが結婚なのです。磨くとは、目に見えない無数の細かな傷を付け合うことですから、遠く、違う者同士であるほど砥石の目は荒く、その磨き合いが効果的なのは道理です。ときには磨き過ぎて「血痕」の名に相応しく血が滲むのも当然です。まさに結婚して伴侶を得たということは、自分に取って世界一素敵で素晴らしい優秀な砥石を手に入れたという事なのです。しかも同時に、相手の両親、兄弟はじめ姻族という砥石も入手し、やがて子供という新たな砥石も加わって、結婚生活の間、様々に磨き磨かれながら、互いの幼児性との決別を強く促し、後押しして行くのです。妻との結婚生活の間に、何とか幼児性との決別のお墨付きを戴きたいものと願う昨今です。


2021年3月29日更新

三方よし
     経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏は、商売の秘訣をこんな言葉で説かれました。「『別にこれといったものはないが、強いていえば“天地自然の理法”に従って仕事をしていることだ』という意味のことを答える場合がある。天地自然の理法に従った経営などというと、いかにもむずかしそうだが、たとえていえば『雨が降れば傘をさす』というようなことである。」 売る人、買う人、取り巻く社会、その全てが笑顔で喜ぶという、この当たり前の実現こそが商売の秘訣だという訳です。「うっかり忘れているところに秘中の秘がある。秘とは常のこと」という言葉を聞いたことがありますが、なるほど、当たり前すぎて特段意識していないことにこそ、実は商売を成功させる最も大事なポイントが秘められていることを理解できます。
     この当たり前を、常に強く意識し実践して大成功を収めた人達が居ました。名高い近江商人の人達です。近江商人といえば「三方よし」の商売で知られています。商売の原点を体現した彼らの成功に学べとばかりに、最近はビジネス雑誌の経営理念特集などで頻繁に取り上げられています。「三方よし」とは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方です。ここでいう「売り手」というのは、現代における企業のことであり、「買い手」というのはお客様のことです。すなわち企業が儲かり、お客様は適正価格でよい品物を得られる、すると、世の中もよくなっていく。三方よしを実現すれば、結果として、企業は永続的な繁栄を遂げることになるという訳です。
     この「三方よし」を実行するため、近江商人は何をしたかというと、以下のようなことです。近江商人の商いの主体は“行商”でしたが、行き先にインフラが行き渡った地域を選ばなかった点に特徴があります。彼らは、不便な地域を狙い撃ちにして新しいニーズを開拓していきました。それも群れを作らず、極力企業単位で行動していく。そうして今風でいうコーポレート・アイデンティティ、いわゆる企業文化を構築して、特性や独自性を統一されたイメージやデザイン、分かり易いメッセージで発信し、これを社会と共有することで存在価値を高めていきました。
     それ故、近江商人は東海道という往来の激しい物流ルートをほとんど活用せず、代わりに中山道という、山と谷が多く、どこへ行くにも非常に苦労するルートを選びました。彼らの本拠地は今の滋賀県でしたから、そこから天秤棒を担ぎ険しい中山道を克服しながら、主に西よりも東へ、北へと向かっていきました。そういう不便な所へ行くと、当然ながら品物だけでなく“情報”を欲しがるお客が多い訳で、近江は都に近い故に、付加的なサービスとして、中央の情報を商品と一緒に届ける様になりました。また品物を届けるに当たり、事前のマーケティング調査を周到にしていました。彼らは、自分達の商売に役立つと思えば、あらゆる職業、あらゆる階層の人達を招いて話を聴きました。その情報を基に商品の見本を作り、顧客の心を掴んでいったのです。商売の原点「三方よし」は、商売の何たるかを今も変わらず私達に伝えてくれています。

 反怖 謙一(たんぷ・けんいち)

  三井住友銀行 人事部研修所 顧問
  (元・陸上自衛隊 陸将 第1師団長)



現在、「反怖謙一の『ABC通信』」は、SMBC経営懇話会会員さま向けの会報誌、「SMBCマネジメント+(プラス)」(月刊誌)で連載中です。

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