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マネジメントコラム

時節に合わせて経営者に身近な話題を取り上げ、執筆者が独自の視点でメッセージとしてまとめたコラムです。

事業承継問題と遺留分減殺請求権

 ~民法改正も受けて~

増田 慶作

山田コンサルティンググループ株式会社 代表取締役社長



企業オーナーが会社の経営を長男に承継させる。自然当然に自社株式も長男に承継させる。他に子供、例えば長女と次男がいる場合、自社株式を長男に承継させる遺言書を遺すか、長男への生前贈与が有用である。自社株式が兄弟間で分散することは、後々自社株式の買取り問題等、会社やオーナーにとって深刻な問題となるので事業承継者に集中すべきである。

<遺留分減殺請求権>

注意すべきは「遺留分減殺請求権」。民法では遺族の生活の安定や最低限の相続人間の平等を確保するため、推定相続人(兄弟姉妹等を除く)に最低限の相続する権利(遺留分)を定めている。遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の1/3、それ以外が相続人の場合は法定相続分の1/2である。子供が3人の場合、各相続人の遺留分割合は1/6(1/3×1/2)。相続人は自己の取得分が遺留分より少ない場合には、自己の遺留分に相当する財産を取り戻すことができる(遺留分減殺請求権の行使)。

上記の例では、自社株式の評価額が高額で長男に自社株を集中させた結果、長女や次男の遺留分を侵害することになった場合、長女・次男は長男に対して遺留分減殺請求権を行使できる。

<相続税計算上の評価額と遺留分算定上の評価額は異なる>

悩ましいのは、遺留分の計算は相続税評価額によらない点である。

① 不動産……相続税評価額:路線価や固定資産税評価額
           遺留分の計算:時価

② 非上場会社株式……相続税評価額:財産評価基本通達に基づき計算した価額
                 遺留分の計算:時価

③ 生前贈与財産……相続税の計算:贈与時の価額
               遺留分の計算:相続時の価額

一般的に遺留分計算上の評価額は相続税評価額より高い。事業承継者に自社株を承継する場合には遺留分の評価額も考慮する必要がある。

<遺留分に関するトラブルの回避策>

評価額の高い自社株式を事業承継者に集中して承継させると、他の相続人の遺留分を侵害するケースが多い。トラブル回避策は以下の通りである。

① 生前における遺留分放棄
   遺留分の権利を有する推定相続人は、相続発生前に遺留分を放棄できる。ただし放棄には家庭裁判所の許可が必要である。

② 自社株式の「除外合意」と「価額の固定合意」
   非上場株式については「遺留分に関する民法の特例」が設けられている。ひとつは、承継者が取得した自社株式を遺留分算定の
   基礎財産に入れない合意(除外合意)。もうひとつは、承継者が取得した自社株式の価額を(相続時の価額ではなく)合意時点の
   価額とする合意(固定合意)。ただし、いずれも、あらかじめ相続人間での合意が必要である。

<民法改正―遺留分減殺請求権の金銭債権化>

昨年、約40年ぶりの民法(相続関係)改正が行われた。そのひとつが「遺留分減殺請求権の金銭債権化」。従来は、遺留分減殺請求権が行使されると、遺留分権利者(先ほどのケースは長女・次男)と、受遺者・受贈者(同、長男)との間で、自社株や不動産等の財産が共有状態となり、共有者間の合意がないと処分等もできず、また、一方ではその共有財産を遺留分侵害額相当額の支払いに充てることができた。改正後は、財産の共有関係は生じず、遺留分侵害額相当額の金銭の支払い請求権が発生することに変わる。つまり、受遺者・受贈者(多額の財産を相続・贈与で取得した者)は当事者間の合意がなくても財産を処分することができるようになり、一方、遺留分権利者に対して「金銭」で遺留分侵害額相当額を支払わなければならない。先ほどの例では、事業承継者である長男が自社株を集中取得すると、長女・次男に対して多額の金銭を支払わなければならなくなる。この民法改正は、2019年7月1日以降に発生した相続から適用される。

親子間、兄弟間の緊密なコミュニケーションがさらに重要になった。争いは正義と正義のぶつかり合いである。正と邪との戦いではない。早い時期から専門家を交えて「税」・「民法」を押さえたうえで総合的に検討を進め、判断・実行することが肝要である。





執筆者プロフィール

増田 慶作(ますだ けいさく)

山田コンサルティンググループ株式会社 代表取締役社長

1961年宮崎県生まれ。85年中央大学法学部政治学科卒業、89年東洋大学大学院法学研究科私法学専攻修了。同年、司法書士登録。97年税理士登録。
司法書士事務所、会計事務所等を経て、91年、公認会計士・税理士山田淳一郎事務所(現・税理士法人山田&パートナーズ)入所。2000年7月より、ティーエフピー経営コンサルティング株式会社(旧・山田ビジネスコンサルティング株式会社)代表取締役社長。以降、グループ各社の代表取締役を歴任。16年10月より現職に。 主な著書に『最新 組織再編の法律・会計・税務ハンドブック』(共著、日本法令)、『経営者のための新会社法と事業承継対策』(共著、財経詳報社)などがある。


(2019年3月掲載)

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