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SMBCマネジメント+(プラス)

三品 和広 氏

経営者の定型仕事

経営者とは何をする人なのか。答は「人によりけり」である。しかしながら、経営学者として事例研究を重ねてくると、優秀な経営者に共通する定型パターンが見えてくる。

そのパターンを解く鍵は、何を社員に委ね、何を委ねないかにある。一般に人間は、見られていると張り切るが、見られていないと力が抜けてしまう。力が抜けるどころか、魔が差すことすらあるから怖ろしい。そういう性を責め立ててみても何も生まれない。出来の良い経営者は、その点をよくわきまえている。

たとえば製品は、見られるものの代表格である。顧客が陰に陽に評価するし、同業他社は分解して分析に回すくらいのことはする。ゆえに、製品の開発や製造に携わる社員は絶えず「目」にさらされているわけで、敢えて経営者が見に行く必要はない。権限移譲を進めたほうが志気は上がるはずである。

ところが、同じ製品でも倉庫のようなバックヤードになると、話が違う。そこに配置される人々には、誰の「目」も及ばない。だから在庫管理は甘くなるものと相場が決まっている。そういう陽の当たらない部署には、経営者が顧客や同業に代わって「目」を光らせる必要がある。または「目」を光らせるよう配置した管理職の働きぶりに「目」を光らせる必要がある。

値決めも危ない。やむをえない事情があって値引きしたのか、営業が楽をするために値引きしたのか、肝心なところに誰の「目」も届かない。市場の流れを見据える経営者が値決めに「目」を光らせない限り、低収益が慢性化するのは当然である。

それゆえ、優秀な大企業経営者は忙しい。数字を目で追いかけて、疑問点を担当者にぶつけているうちに一日の大半が過ぎてしまうので、ビジョンなど口にする暇がない。ところが、大局観を身につけた経営者の目には、日々の点検を繰り返すうちに時代の変化が見えてくる。正真正銘の戦略とは、そういう変化を察知するところから立ち上がってくるものなのである。まさに「井の中の蛙、天を知る」である。


※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2017年9月号(9月1日発行)に掲載されたものです。

マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2017年4月号~

  • 伊藤 元重 氏(東京大学 名誉教授、学習院大学国際社会科学部 教授)
  • 近藤 誠一 氏(近藤文化・外交研究所 代表、元文化庁長官)
  • 梅澤 高明 氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
  • 藤原 帰一 氏(東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
  • 坂東 眞理子 氏(昭和女子大学 理事長、総長)
  • 三品 和広 氏(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

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