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SMBCマネジメント+(プラス)

大隅 良典 氏

知っていることと、分かるということ

現代社会はテレビやパソコンなどの爆発的進歩によって情報が容易に手に入る。分からなければすぐネットで検索すれば手軽に情報を手にすることができる。情報の発信源が何か、誰の見解なのかは分からないが、何となく分かったような気になってしまう。一方、研究者が新しいことを発見する上で最も重要なことは、何が問題であるかという課題を見つけることであり、設定された問題を解くことだけではない。

最近、私は若い人を相手に講演をする機会に、私の研究対象でもある液胞という細胞内の膜構造を例に話をする。中学や高校の教科書の図で植物細胞は細胞の大半を占める大きな液胞を持っているということを、誰もが習うので知っている。でもなぜ植物は液胞をもっているかについて考える人はほとんどいない。しかし液胞の機能を知ることで、タケノコが1日で伸び、庭の植物の蔓が動物では考えられない驚くほどのスピードで伸びること、日常的に接するバラやアジサイの色、果実の甘み、酸味、植物と虫との関係などなど様々な世界が広がる。知っていることと理解することには、大変大きな違いがある。テレビなど向こうから飛び込んで来る情報で分かった気にさせられるというのは、現代人にとって大変危険なことだと思う。技術の進歩で素晴らしく美しい自然の映像が眼に飛び込んで来る。しかし同じことを実際自分の眼で見ると、自然はもっと多様で変化に富んでいることに気づかされる。様々な加工やフィルターを通さずに自分の眼でしっかりと見ること、先入観なしに見つめ、その後ろにあるものにもう一歩踏み込んで考えることが大切である。科学の世界でも正しいと思われていたことが、時代とともに訂正されながら進んでいく。言われていることを鵜呑みにしない態度が重要である。小さな子供が発するなぜ?というナイーブな問いを忘れないことが、私たちを豊かにしてくれると思う。これは自然科学者の問題に留まらない、現代人が直面している大きな課題ではないかと思っている。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2019年4月号(4月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2019年4月号~

  • 大隅 良典 氏(東京工業大学科学技術創成研究院 栄誉教授、公益財団法人大隅基礎科学創成財団 理事長)
  • 北岡 伸一 氏(東京大学 名誉教授、独立行政法人国際協力機構(JICA) 理事長)
  • 白川 方明 氏(青山学院大学国際政治学部 特別招聘教授)
  • 髙橋 政代 氏(理化学研究所 生命機能科学研究センター
              網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー)
  • 薮中 三十二 氏(立命館大学国際関係学部 客員教授)
  • 清家 篤 氏(慶應義塾 学事顧問)

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