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SMBCマネジメント+(プラス)

髙橋政代 氏

真のインクルーシブとは

前々回(2020年1月号)に予告していた話題。

3年前に設立した神戸アイセンターでは、未来の医療を見据えた医療のエコシステムの試みをしている。一つの建物の中に研究センター、眼科病院、公益法人、株式会社の4つが入り理念を共有して活動している。会社や公益法人を組み合わせることで患者に良いと思うことが制度に阻まれずにできる仕組みになっている。総合病院の各種加算がなく危ぶまれた公立初の眼科専門病院であるが、蓋をあけてみると他科と仕組みの違う眼科医療に特化していることで効率が良く予想を大幅に上回る経営となった。

最大の特徴は医療と福祉を融合しロービジョンケアや社会実験を行う公益法人がエントランスフロアを占めていることである。病院ではできない段差や変化に富んだ楽しい空間を横目に病院の受付に到達する。入るだけで楽しく元気の出る病院を目指した。なぜなら視覚障害は、同じ状態でも気持ちのありようで生活が千差万別であることを知っているからである。

思えば視覚障害の真の姿を知っているのは眼科病院である。福祉が見ている重度の障害だけでなく、正常から重度まで障害のグラデーションを見ているのは我々だけだと気付いた。重度の障害の人以外は、見えにくいことを隠して生活していることが多く、社会に認知されていない。障害と正常は地続きであるのに。重度障害が対象の福祉と、健康な人という幻想の上に成り立つ社会が交わることはなく、可哀想な人を健康な人の社会に入れてあげる状態である。しかし、我々は知っている。遺伝子診断をすれば全ての人が様々な疾患遺伝子を持っており正常な人はいない。正常なiPS細胞も存在しないのである。

公益法人では「視覚障害者のホントを見よう。isee!運動」を展開している。「誰もが正常でない」ことを理解すれば真のインクルーシブ(共生社会、すべてを含んだ社会)となるのではないか。今回のコロナでは視野障害の人と同じ通勤障害を多くの人が経験し、視覚障害よりもIT障害の方が不自由であることも体験した。障害があることでITを駆使している人も多く、障害を補うデバイスが通常の能力を超え、エンハンスメント(高めること、強化)する時代である。障害はイノベーションを起こすニーズ、価値であることも一部の企業では気付き始めている。

これからのインクルーシブは、やはり価値観の転換がキーとなりそうである。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2021年1月号(1月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2019年4月号~

  • 大隅 良典 氏(東京工業大学科学技術創成研究院 栄誉教授、公益財団法人大隅基礎科学創成財団 理事長)
  • 北岡 伸一 氏(東京大学 名誉教授、独立行政法人国際協力機構(JICA) 理事長)
  • 白川 方明 氏(青山学院大学国際政治経済学部 特別招聘教授)
  • 髙橋 政代 氏(株式会社ビジョンケア 代表取締役社長、理化学研究所 生命機能科学研究センター
            網膜再生医療研究開発プロジェクト 客員主管研究員)
  • 薮中 三十二 氏(立命館大学国際関係学部 客員教授)
  • 清家 篤 氏(慶應義塾 学事顧問)

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