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SMBCマネジメント+(プラス)

白川 方明 氏

Lost decades?

バブル崩壊後の日本経済を論じる際の常套句は「失われた数十年」「lost decades」だった。マクロの成長率や先端技術分野での日本の競争力の低下という事実をみると、この言葉が多用される背景はわからなくもないが、私自身は使わないようにしている。

確かに日本のGDP成長率は低下したが、遅れてバブル崩壊、グローバル金融危機を経験した欧米でも、同様に低成長が長く続いた。2000年以降の1人当たりの実質GDPでみると、日本の成長率は他の先進国並みだ。生産年齢人口当たりでは最も成長している。社会に目を転じると、日本でも格差問題は深刻だが、欧米はもっと深刻だ。結局、どの国も難しい問題を抱えている。にもかかわらず、我々は「lost decades」を連呼することによって、必要以上に自虐的ないし悲観的気分に囚われていないだろうか。

それ以上にこの言葉で気になるのは、低成長の原因を誤認していることだ。犯人扱いされたのは多くの場合、デフレであった。しかし、1998年以降15年間の累計4%弱、年率0.3%の物価下落が低成長の根本原因であったとは思えない。低成長の原因は最初の頃はバブル崩壊の直接的な後遺症であったが、その後は情報通信革命やグローバル化、急速な高齢化・労働人口の減少に対する社会全体としての対応の遅れがより大きな問題となっている。2012年末から始まった景気回復も、中身は労働参加率上昇等による資源投入型の成長で、これに頼れるのもそう長くはない。肝心の生産性の伸びは以前に比べ明確に低下している。日本経済の真の問題は、アクションを取らない限り、現在のそれなりに快適な状態が今後は維持できなくなることだ。

関連してもうひとつ気になるのは、この言葉にはどこか傍観者的な気分が漂っていることだ。オープン・イノベーションを引き出しやすい雇用慣行、持続可能な社会保障制度の構築、生産性向上のネックとなっている「過剰スペック」の見直し……どれをとっても、我々自身が答えを出さなければならない問題だ。

経済運営でも企業経営でも、問題の基本認識とそれを表す言葉は極めて重要だ。曖昧な認識や言葉からは、社会全体としての問題解決へのエネルギーは生まれてこない。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2019年6月号(6月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2019年4月号~

  • 大隅 良典 氏(東京工業大学科学技術創成研究院 栄誉教授、公益財団法人大隅基礎科学創成財団 理事長)
  • 北岡 伸一 氏(東京大学 名誉教授、独立行政法人国際協力機構(JICA) 理事長)
  • 白川 方明 氏(青山学院大学国際政治経済学部 特別招聘教授)
  • 髙橋 政代 氏(理化学研究所 生命機能科学研究センター
              網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー)
  • 薮中 三十二 氏(立命館大学国際関係学部 客員教授)
  • 清家 篤 氏(慶應義塾 学事顧問)

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