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SMBCマネジメント+(プラス)

髙橋 政代 氏

100年後のユートピア

さて、前回予告した100年後の未来である。

今は楽になったとは言えiPS細胞の培養は通常よりも難しい。匠の技を必要とする。匠の技はあらゆる分野で日本に数限りなくある利点であり、伝承できないという弱点でもある。iPS細胞の培養も同じ。プロトコール(仕様書、手順書)にできない暗黙知が多いからである。

我々の研究室では、匠の技を全て数値化して双腕人間型ロボットに再現させるプロジェクトが進行中である。ロボットは訓練もなく最初から再現性良く細胞培養ができ、条件検討もお手の物である。大量生産用ロボットとは異なり、目指すは匠の技を持って開発をするスーパー研究員によるロボットバイオロジーである。AIがバズワードになって久しいが、画像解析やデータ蓄積の世界で優位に立つことは難しくても、日本の匠の技を移したロボットであればまだ勝算はあるかもしれない。

正確で優美な動きの双腕ロボットと働くのは楽しい。ロボットがチームの一員として働いている状況になった。ある時、研究員が言った。「あれ、実験に気を使わなくていいので、一つ階層が上のことを考えているぞ」。技術員が言った。「技術を吸い取られたら自分はどうなるの?」。体感してわかるAIロボットと一緒に働く未来。解放と不安。これは社会実験だなと感じる。この2人が同じ満足感を得られないと、細胞が綺麗にできてもこの実験は失敗かもしれない。

そんなことを考えながら、100年後のシミュレーションを頭で繰り返すと、楽観的な私でもディストピアが浮かんでくるのである。 映画「her」や「ブレードランナー2049」はもうSFとは思えない。今、身の回りに起きていることの延長上、当然の現実である。ディストピア回避のためには社会の価値観の変換が必要であると感じる。多くの人がそう感じてSDGsがうたわれているが、古来日本の会社や文化に馴染むものであり、最近の若い優秀な人たちは実践している。日本から発信できる価値観であり、万博でその未来社会を実現して見せることができれば良いなと思う。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2020年1月号(1月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2019年4月号~

  • 大隅 良典 氏(東京工業大学科学技術創成研究院 栄誉教授、公益財団法人大隅基礎科学創成財団 理事長)
  • 北岡 伸一 氏(東京大学 名誉教授、独立行政法人国際協力機構(JICA) 理事長)
  • 白川 方明 氏(青山学院大学国際政治経済学部 特別招聘教授)
  • 髙橋 政代 氏(株式会社ビジョンケア 代表取締役社長、理化学研究所 生命機能科学研究センター
            網膜再生医療研究開発プロジェクト 客員主管研究員)
  • 薮中 三十二 氏(立命館大学国際関係学部 客員教授)
  • 清家 篤 氏(慶應義塾 学事顧問)

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