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SMBCマネジメント+(プラス)

大隅 良典 氏

民主主義を支えるもの―― 権利と義務

日本では、権利と義務という概念が希薄である。もう随分昔になるが、私が留学先で遭遇した2つの事例をもとに述べてみたい。

私は、ニューヨークにある、小さいが有名なロックフェラー大学に留学していた。ボスはとても怖いことで知られていたノーベル賞学者であった。毎週決まった日に床掃除をするために掃除をする人が研究室に入る。その時に研究室に居座っていると、たとえ著名な教授でも、恐ろしい剣幕でまくし立てられる。掃除をする人は掃除をする義務を負っているが、同時に掃除をする権利がある。彼はその権利を侵害された訳である。日本ではこのようなことはあり得ないなと私には印象深い出来事であった。

2つめは、帰国の折にきちんと税金を納めていたという証が求められた時の事だ。気軽にダウンタウンの出張所に許可証を取りにでかけると、「お前は税金の支払いが不足していて書類を出せない」と言われた。びっくりして大学のオフィスに行ったところ、担当者が大きな書類を抱えてきた。書類を見ると、法律の改定で日本人に対する優遇措置がなくなっており、月々その差額が差し引かれていなかったことが判明した。すると担当者に「これはこちらの手落ちだ。貴方は帰国する時間が迫っているので、今ここで小切手を切る。これで再度申請をしなさい」と言われた。相当な金額の小切手だった。

このようなことが日本であるだろうか。日本では窓口の担当者から始まって何人かにお伺いを立てて、延々と待たされた挙げ句、規則通りに払ってくださいという結論になる。もちろん私立大学だったからかもしれないが、その場の担当者の判断で即決されたのだ。

一方、日本では出張の書類であってもたくさんの印が必要とされる。しかし、中間の印の意味はなく、問題が生じると最高責任者が頭を下げる。そして周りは、その人には実は責任がないのにと思いつつ、その場を納めることになる。

私はどんな小さなことにでもそれぞれに権利があり、それに伴って義務があるという、権利と義務の関係が、日本でもしっかり認識されることが必要であると強く思っている。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2019年10月号(10月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2019年4月号~

  • 大隅 良典 氏(東京工業大学科学技術創成研究院 栄誉教授、公益財団法人大隅基礎科学創成財団 理事長)
  • 北岡 伸一 氏(東京大学 名誉教授、独立行政法人国際協力機構(JICA) 理事長)
  • 白川 方明 氏(青山学院大学国際政治経済学部 特別招聘教授)
  • 髙橋 政代 氏(株式会社ビジョンケア 代表取締役社長、理化学研究所 生命機能科学研究センター
            網膜再生医療研究開発プロジェクト 客員主管研究員)
  • 薮中 三十二 氏(立命館大学国際関係学部 客員教授)
  • 清家 篤 氏(慶應義塾 学事顧問)

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