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SMBCマネジメント+(プラス)

坂東眞理子 氏

経営者の報酬

「雪山黄金となるもその渇を癒すに足りず」という言葉がある。仏教では(ほとんどのまともな宗教では)貪欲を戒めるが、この言葉もいくらヒマラヤ山がみんな黄金になるほどお金があっても欲望は満たされない、あるいはいくらお金があっても肉体的、精神的な渇きをいやすことはできないという意味である。

今回報酬の不記載や、特別背任の疑いで逮捕された自動車メーカーのトップも10億円近い年俸、社用ジェット機や立派な社宅、名経営者としての名声にも、不満だったのかと驚くばかりである。

海外では会社の利益を増大させた経営者が高給を得るのは当然、高給を出さねば有能な人は来ないといわれて日本でも経営者の報酬は上昇している。公務員や非営利団体と異なり、民間企業の経営者は、社会のニーズに的確に答えたモノやサービスを提供し利益を上げるのが最優先の義務であり使命でありそこから高い報酬を得るのが当然とされる。

しかし高給を求める「有能」な人は貪欲な人であることが少なくない。

先の自動車メーカートップの場合も過去のしがらみを切り、コストカットした功績はあったにしても、営々として築き上げた技術力に裏付けられたブランドへの信頼があったからこその業績回復である。過度に業績連動型の報酬体系にすると短期で成績を上げようとし、長期的な投資がなおざりになる。短期的株主価値最大化のためにはSDGsだ、ダイバーシティ経営だ、健康経営だ、などといった社会の公器としての活動は「余計なこと」になってしまう。そして経営者が私欲にはしらないよう、コンプライアンス遵守や監視機能を強めるための間接経費が膨らんでいく。

一番大きなコストは富める者と貧しき者の格差が開き、社会が分断されることである。そうなってしまっては、社会的コストが膨大になり貧しい人が不幸になるだけでなく、経営者自身も満足や安らぎと程遠い人生になってしまうのをこの事件は示している。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2019年2月号(2月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2017年4月号~

  • 伊藤 元重 氏(東京大学 名誉教授、学習院大学国際社会科学部 教授)
  • 近藤 誠一 氏(近藤文化・外交研究所 代表、元文化庁長官)
  • 梅澤 高明 氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
  • 藤原 帰一 氏(東京大学政策ビジョン研究センター センター長、東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
  • 坂東 眞理子 氏(昭和女子大学 理事長、総長)
  • 三品 和広 氏(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

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