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SMBCマネジメント+(プラス)

伊藤 元重 氏

デフレに縛られる消費者

人間とは、いつも合理的な行動をとるわけではない。様々な行動のくせを持っており、目先の衝動や周りの行動に影響を受ける存在である。言われてみれば当たり前だが、こうした見方から経済を見直してみようというのが、最近流行の行動経済学である。一般の人には分かりやすい重要な視点が多く提示されている。

その中の一つに、人間とは現状の維持にこだわり、過去からの経験に縛られる存在である、というものがある。買い物のスタイルなど、いったん確立した習慣を人々はなかなか修正しない。だから、企業の側ではこうした習慣を利用して、継続的な購入につなげようとする。同じような商品でも、他社に先駆けて大きなシェアを確保した企業が有利であるのは、それだけ多くの人がその商品を購入する「くせ」を持っているのだ。

デフレとの関係で問題となるのは、価格の刷り込み効果だ。いったん消費者に刷り込まれた価格の相場感を壊すのは大変なのだ。有名な実験がある。教室で学生に自分の社会保障番号の下二桁を紙に書いてもらう。00から99まで、色々な数字が紙に書かれている。その上で、美味しそうなワインを1本出して、それに1ドルから100ドルまで、いくら出す気があるか値段を出してもらう。一番高い価格を出した人が、そのワインを購入することになる。

驚いたことに、下二桁の数字が小さい学生ほど、低い価格しか提示しないという傾向が非常に強く出た。似たような実験を色々な国や場所でやってみたが、同じような結果が出る。社会保障番号とワインの評価には関係ないが、なぜか小さな数字の人の方が安い価格しか出さない。少し前に自分が紙に書いた数字が、その直後の価格設定にマインドコントロールを及ぼしている。少し前の経験が人間の価格行動に不思議な影響を及ぼしているのだ。こう考えると、デフレで低価格を経験した消費者のマインドコントロールを破るのは大変なことになる。



※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2018年10月号(10月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2017年4月号~

  • 伊藤 元重 氏(東京大学 名誉教授、学習院大学国際社会科学部 教授)
  • 近藤 誠一 氏(近藤文化・外交研究所 代表、元文化庁長官)
  • 梅澤 高明 氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
  • 藤原 帰一 氏(東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
  • 坂東 眞理子 氏(昭和女子大学 理事長、総長)
  • 三品 和広 氏(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

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