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SMBCマネジメント+(プラス)

近藤 誠一 氏

「見えざる手」をどう活用するか?

長引く不安定な世界経済を背景に、「資本主義の終焉」などこれまでの経済学とりわけ自由市場主義を批判する書籍が店頭に並ぶ。他方でビットコインやシェアエコノミーなど、いまのシステムを前提とした新しい概念も進化している。どのアプローチが適切なのだろうか。

重要なことは、理論と、それを現実の人間社会に適用する制度との間に不可避的に存在するギャップに、人間がいかに賢く対応できるかである。

ここでアダム・スミスの「見えざる手」について考えてみる。市場には、個人の利己的行動が社会全体の利益の達成につながる自動調節機能があるというこの理論は、経済学の基本である。社会を合理的に運営したいなら、この理論を真っ向から否定することは難しい。これが機能しないとすれば、それは行動主体がモラルに反する行動を起こすからであり、それを防げば社会の均衡は維持されると考えられている。

しかし、書籍『不道徳な見えざる手』の著者である2人の米国人ノーベル経済学者、ジョージ・アカロフとロバート・シラーは、この「見えざる手」自体に落とし穴があると言う。

市場経済主義は、参加者の合理的行動を前提にしているが、現実は違う。ひとは見栄や嗜好などの非合理的感情や錯覚で行動し、情報操作に惑わされて判断を誤る。そして企業は広報などで競ってこうした消費者の弱みに付け込もうとする。

客観的に合理的ではなくとも本人の嗜好などを反映した選択なら、本人にとってはそれなりに合理的なものだから「顕示選好」として受け入れるべきというのが一般的だ。しかし2人の著者は、現実に行われているのは疑似餌を使った詐欺まがいの「釣り」であり、それに引っかかった消費者は合理性逸脱を自己正当化する「ストーリー」をつくって納得してしまう。それは健全な均衡ではない、「釣り均衡」なのだという。

自由市場の価値自体は繰り返し肯定するが、市場経済をマネージすることの難しさを示唆するものである。


※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2017年11月号(11月1日発行)に掲載されたものです。


マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2017年4月号~

  • 伊藤 元重 氏(東京大学 名誉教授、学習院大学国際社会科学部 教授)
  • 近藤 誠一 氏(近藤文化・外交研究所 代表、元文化庁長官)
  • 梅澤 高明 氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
  • 藤原 帰一 氏(東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
  • 坂東 眞理子 氏(昭和女子大学 理事長、総長)
  • 三品 和広 氏(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

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