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SMBCマネジメント+(プラス)

藤原帰一 氏

東南アジアに帰る

日本が東南アジアに戻ってきた。

占領下の日本は近隣諸国との外交も通商も途絶えていたが、東南アジア諸国への賠償をきっかけとして貿易、さらに直接投資が拡大し、戦時賠償が政府開発援助(ODA)に引き継がれた。石油危機前後になると東南アジア地域は日本経済を支える市場として台頭した。国交正常化後の中国には賠償という形はとらないものの巨額の経済協力が行われ、それが貿易と直接投資を引きこむインセンティブとなった。経済協力が民間資本の流れを引き出すサイクルをここに見ることができる。

だが、バブル経済が破綻した後の日本経済は縮小を続け、中国やASEAN諸国をはじめとする発展途上国への投資からも後退する。ちょうど同じ時期に中国経済が台頭したため、アジア経済の中心は東京から北京に移ったかに見えた。

安倍政権の発足前後から、この流れが変わる。安定を取り戻した日本経済は対外投資に積極的となり、とりわけ緩やかに退潮を続ける中国市場のリスクをヘッジするためにASEAN諸国への関心を強めた。中国との軍事的緊張も一因となって安倍首相はASEAN諸国への訪問を繰り返し、政府間の連携も強まった。ASEAN重視としては、小渕政権以来のことである。

政府と企業ばかりではない。私の勤める東京大学でも、インドネシアやタイのようにこれまで交流実績のある諸国に加え、ベトナムとミャンマーとの学術協力を進めている。道路や港湾など、目に見えるインフラストラクチャーを重視してきたかつての経済協力と異なる、教育を柱とした新たな国際協力の模索である。

リーマンブラザーズの破綻以後、新興経済圏の成長が頓挫し、それが世界経済の回復を阻む構図が続いている。他の地域と比べると安定した経済成長を続ける東南アジアは、新興経済圏としては例外的な存在であるといってよい。

東南アジアに戻ってきた日本がまた出て行かないように、安定した関係の構築を期待したい。


※本原稿は「SMBCマネジメント+(プラス)」2017年7月号(7月1日発行)に掲載されたものです。

マネプラ・オピニオンについて

ビジネス情報誌「SMBCマネジメント+(プラス)」にて、下記の6名の識者の方々が、自身の視点でまとめた経営者へのメッセージを巻頭コラム「マネプラ・オピニオン」として連載しています。

【執筆者一覧】 2017年4月号~

  • 伊藤 元重 氏(東京大学 名誉教授、学習院大学国際社会科学部 教授)
  • 近藤 誠一 氏(近藤文化・外交研究所 代表、元文化庁長官)
  • 梅澤 高明 氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
  • 藤原 帰一 氏(東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
  • 坂東 眞理子 氏(昭和女子大学 理事長、総長)
  • 三品 和広 氏(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

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